トップページ > 八幡西区の優しいスペース「民芸茶屋他抜や」:門司洋瓦の考える本物

障害を持った方への優しいスペース 「民芸茶屋他抜や」渡辺さん

今回は北九州市八幡西区香月の
「民芸茶屋他抜や(たぬきや)」さんの
店内で店主(※呼称要確認)渡辺さんよりお話をお聞きしました。
バリアフリーを強く意識した造りについてや、メニューへの思い入れなど内容・量ともに非常に充実したお話をお聞かせ頂きました。
ミクロ工芸家の石井岳城との交流の中でのエピソードなど、興味深いお話もご紹介頂きました。
質問
お店の入り口のスロープなど、造りに配慮が感じられます。開店当時からバリアフリーへの取り組みに対して積極的だったのですか?
渡辺さん
開店当時、障害を持った方が役所などへお電話をされて、食事が出来る店を尋ねても役所の方でも名前を挙げられない。そんな状況でした。「私達が食べに行けるところはありますか?」と聞いても役所の職員の方でも答えられない、紹介出来ない。それが平成7年の当時の事です。障害を持った方たちが集える場所、所謂社会交流の場所。やっぱり社会と交流しないといかん。そういった意識がありました。
当時はこういう感じです。
「あなた寝とってね。家に居ってね。お留守番しとってね。お土産買ってくるから。」大体そうなんです。だって何処も入れないんだから。スペースを取る、店から嫌われる。だから家に居ってねとなる。それは可哀想、(受け入れる準備が出来ていない)店側の問題なんだから。
健常者との交流のスペース。これが必要です。

リラックスして食事が楽しめる場所としての他抜や
質問
お店にバリアフリーを取り入れているだけではない思い入れの様なものを感じますね。
渡辺さん
親御さんや家族の方が言うんですよ。
「ファミリーレストランなどだと落ち着かない事がある」、
「迷惑を考えると行かれん」と、
そういった言葉を多く耳にしたもんで、その為の場所を作ろうとスタートしたのがきっかけです。
まずはこのお話を知って頂きたい。商売をしたいという気持ちで始めたのではない、きっかけではないというのが前提です。
今にしてみると、そういう目的で他抜やを始めたんだけど、日本が高齢化を迎えてきて、施設に入るようになったおじいちゃんおばあちゃんもこういった(バリアフリーの)施設を探す様になった。
高齢の方向けの施設に居る方にも余暇の為の場所や時間を作ってあげなければならない、だからバスが入れる、足の悪い方向けのスペース(入り口から真っ直ぐ正面にある座れるスペース)、座敷に上がれる方には座敷に上がってもらう
当時は小さな子達を想像していたけれども、今では高齢の方がマイクロバスに乗って来られる。
色々な施設の方から問い合わせの電話がよくかかってきます。「何人くらいですけど大丈夫ですか」と、「席は取れませんけど、12時くらいに来てもらったら大丈夫ですよ」といった感じです。
最初は子供さんを対象に考えていて、その延長線上で高齢者の方達にも楽しんでもらえるようになった。だから僕は始めて良かったなって思う。
普通食事と言ったら回転率とか効率ですからね。こんなにゆったりしてたら儲からないんです。
それがどうして可能かと言うと、ここは大体800坪ある先祖代々の広い敷地、土地、家です。だから地代を食べ物に乗せなくて済む。賃料を払わなくていい。だからリーズナブルな価格でお客さんに提供することが出来る。だから倒産する事はない。リーズナブルな価格でお客さんが集える、高くないからお客さんも安心出来ます。

民芸茶屋他抜や開店時の葉書と以前に行われたホタルの里の葉書。
平成八年八月八日八時八分八秒八八(20世紀最も縁起が良い数字 末広がり)からもこだわりが感じられます。
地代が乗ってくると1000円のものが1300円になる訳でしょ。それが最初から要らないから。
ここまでが大体触りの部分です。どうして始めたのか、そしてどうやって続けてきたのかというお話です。
他抜やのスタンス
渡辺さん
食事を提供するからには美味しかったと感じてもらわなければならんという事があります。うちの息子が厨房に入って皆さんに美味しいものを食べてもらおうと頑張っています。
今では色々な方への配慮のあるお店も増えて来ましたが、昔は街に出れば車椅子ごと抱えて運ぶ様な事もありました。それくらいの気持ちは今でも持ってる。
ある方が昔、他抜やの事を知って「大きな盲導犬を連れてそちらに行ってもよいか」と問い合わせの電話をされて、その時にたまたま電話を受けたのが息子でした。
そして息子は普通に「どうぞ」と答えて、電話をされた方は「初めて言われた」とびっくりされたそうです。何の違和感も無く「どうぞ」って言われた事に感動されたそうです。そして後日、大きな盲導犬を連れてお店に来られた。そして普段外では感じる事が出来ない盲導犬のリラックスした様子に驚き、また感激していらっしゃった。
二度目の時には座敷に上がってみたいという事で、「どうぞ」とお答えしてご案内しました。元々がそういったお客さんにこそと思って始めた店ですから当たり前の事ですが、後に「私達に食べに行ける場所が出来たんですよ」とお話されていたと聞いて、僕は他抜やをやっていて良かったなと感じました。
名物の一つ、瓦そばのお話

出てくるとお客さんが自然と声をあげる名物の瓦そば。味も勿論最高です。
渡辺さん
ところで、門司さんとは会長さんが現役の時からのお付き合いです。
僕らがまだ若かった頃から。あの子達はまだこんな子供や。今は彼らが活躍する年代です。
当時、お父さんに瓦の発注をした訳です。どうしてだって言われるんで、「いやいや蕎麦が好きやし、兎に角、瓦を作ってくださいよ」と言ってね。
瓦というのはやはり、ずーっと料理しとったら割れてきますから。パリーンと割れます。ずっと熱っしよったらそういうことになるので、長くやってくる中で定期的に門司洋瓦さんに頼むわけです。
メニュー・食事へのこだわり
渡辺さん
お昼のメニューと夜のメニューは雰囲気がまた変わるんですよ。例えば夜は焼き鳥が出ます。単品の料理もいっぱい出ます。
勿論皆さんがよく知っている他抜きやのお膳の料理があります。でもそれだけじゃつまんない。「たまには焼き鳥も食べたいよね」ってなるでしょう。日本人の一番ねぇ、ポピュラーなのです。食べたいものに変わりはないんです。「あれ食べたいの」って言ったらすぐ出来ます。焼き鳥が出来て、お膳が出来て単品のものが出来て、みなさんそれぞれあちこち移動しなくていい。
なんでかって、移動する場所が無いんだから。ここで夜は全部賄おうよってなる。そこまで考えて、移動しなくて満足感を味わってもらう。
質問
代表的なメニューについていくつか教えて下さい。
渡辺さん
一般的な料理のメニューからだと、先ず「お刺身はまず新しいのを食べたいよね」っていうのがあるので、そこはこだわってます。
そして若い人は「豚の角煮やら、こってりしたのが美味しい。食べたいよね」ってのも当たり前ありますからこってりなメニューも提供していますね。
メニューは全部若者にも受け入れられる様に、皆さんに受けられるように作って食べてもらったりしました。そしたら皆さん満足してくださった。他抜きやならではの経験を踏まえてメニューを想定して作ってみて試食して頂く。
そしたら「いいですよ」って前進していけます。
お昼は単品料理はしませんけど、お昼は大体普通のお膳料理で良いじゃないですか。
夜はやっぱり誕生祝いとか、お友達の色んな祝い事があったり、やっぱり今度は居酒屋にチェンジが出来るようにしています。
となると単品メニューですね。
「たこの唐揚げちょうだい!」
「揚げ出し豆腐ちょうだい」
「今度は焼き鳥が食べたくなっちゃった!」
「豚バラちょうだい」
「肝ちょうだい」
「ウインナーちょうだい」 って元気なのがいい。
そして、お酒ももう大体皆さんが一般的に飲むものは用意してある。移動しなくても良いように、若者が飲むアルコールも用意してある。
誕生日だったりお祝い事とかいうのは、仕事が終わってから大抵夜やりますよね。皆さん夜は1日の仕事が終わって楽しく過ごしたいんだから、昼と同じでは満足出来ない。
「だから夜は居酒屋に変身!!」と。だから昼間とは全く変わります。
「仕事が終わってから食べにくるね」って
一緒に来る。仕事が終わって、ビジネスが終わってね。
今、若い人たちの飲み方いろいろあるでしょ。昔とは飲むアルコールの種類も全然違うよね。僕たちの頃とは違うんで、若い人が好むものも全部用意してます。
それでね、会席コースって言ってね。飲み放題のなんかもつくってます。
会席コース、そこにアルコールの飲み放題も、若い人たちが飲むような『宴会も賜ります』というような、瓦そばもあるコースなんだけど飲み放題。お酒飲み放題でこれだけですよ、というコース。
これが会席のコース。
そしてここにお刺身があるでしょ?そして蕎麦コースって言って、ここがお膳で茄子の田楽。満足して頂ける様に種類がこれだけ出ます。そして最後はお茶漬けね。
そしてお酒飲まない人は、全くこれだけ。3000円。お酒飲む人は1500円かな。プラスしたら飲み放題。今流行の!ここに前菜五品、刺身、盛り合わせ、こういう種類が出る。そしてお茶漬け。
もう腹一杯。3150円。地代家賃が料理の価格に乗せていないってことね。だからとてもリーズナブルなんだ。
お客さんにね、なんでここはこんなに刺身がこんなに安くて美味しいんだと言われる。一流の魚屋から入れる。普通は価格に合わないんだよ。だけどね、僕は美味くない刺身は出したくない。
だから息子にも最高の店のところで仕入れをする様に言ってる。だから儲からないんよ。
刺身が旨いってわざわざ言ってくれる方も居ます。こだわってますから、そう言って頂けるとそれはもう嬉しいです。
ミクロ工芸家の石井岳城さんとの交流
質問
ミクロ工芸家の石井岳城さんとも交流があるとお聞きしました。
渡辺さん
石井岳城さんは千葉の銚子の方ですね。以前に石井さんが九州を回っていた時に縁があってお店に来てもらって、そうしたら石井さんが「うわぁ、ここは良い雰囲気だね」と仰って下さって、お食事を頂いてもらって、うちはギャラリー室があるから色々なアーティストの方などに気軽に使ってもらえる様にしているんです。
そしたら先生が「ここに来年来たいよなぁ」って言ってくださるんで、「先生、それは用意しておきましょう!」とお伝えして、また来て頂いてまあ盛り上がりました。
僕もプラス思考のパワーで動いておられる方とお会い出来るのは嬉しいですから、出来る限りの事をしたいと思ってます。
もう知りあってから、かれこれ6年くらいになるのかな。
そしたらですよ。うちの嫁さんがある先生の作品に惚れ込んでしまって、それで先生に購入したいと伝えてね。先生は「良い人に買ってもらえる」と言ってくれて、とても良心的に譲ってもらいましたよ。
石井さんは髪の毛一本に顔料を塗って、凄まじく精細に字を書いてますよね。見ましたか?あれはね、人間業じゃないですよ。凄いのは技だけじゃなくてね、驚くべき凄い話が沢山ありますよ。
石井岳城さんの話は更に…
渡辺さん
西日本新聞社の若い記者がたまたま来ました。先生の事を聞きつけて取材に来ました。そうして先生を見て、「西日本新聞のなになにです」と名刺を差し出した。そうすると先生が、「あなたは56年生まれの酉年生まれだね」って先生が言ったわけ。
そしたらその新聞記者が慌てて「先生僕名刺に落書きしてたんですかね」って言うと、先生は「何にも無いよ」ってね。新品の名刺でした。そしたらその新聞記者は固まった!
それでその新聞記者が朝10時から来てずっと居るから「早く帰らんでいいんか?」って言ったんやけどずっと居る。それで先生と夜の食事の集まりの事などを雑談で話してたら、(記者が)「取材に来ていいですか?」って言うんよ。
僕は「取材とか言わんで一緒に酒飲みに来い」「無礼講で飲むんだから」ってね。「リラックスした場なんだから取材じゃなくて食事をするんだったら君も来なさい」と。そしたら「カメラほたってきます!(置いてきます)」って言ってね。それで一緒に食事をした。
そしてその食事の席で先生が絵を描いたら、またその子は固まってた。(笑)
先生は「渡辺さん、顔相っていうのは大事なんだよ。履歴書が全部出るんだよ」って言う。良くも変わるし悪くも変わる訳でしょう。お医者さんならお医者さんの顔、ボランティアならボランティアの顔に。そう考えると先生の言葉はとても納得出来ましたよ。
この後にもいくつもお話を紹介して下さいました。兎に角プラス思考の方とどんどん繋がっていくのだと笑顔でおっしゃる渡辺さんのお話は表情豊かで惹きこまれる興味深いものでした。
また、2回に渡ってお話を他抜やさんの店内でお聞かせ頂きましたが、お客様が心から食事と他抜やで過ごす時間を満喫していらっしゃるのがとても印象的でした。
お忙しい中、長時間ご対応頂いた渡辺さん、スタッフの皆さんありがとうございました。