トップページ > 湯布院温泉 御宿 由府両築 女将 緒方真美様 取材ページ

今回は大分県由布院の老舗旅館「由府両築」の若女将、緒方真美様よりお話をお伺いしました。
20代で飛び込んだ旅館業、若女将としての取り組みやこだわり、4月の熊本地震以降の由布院の元気な姿など様々なお話をお聞きすることが出来ました。
- 1, 創業時についてと女将としてのスタート
- 2, 接客へのこだわり
- 3, 時代・お客様の変化
- 4, 4月16日の熊本地震
- 5, これから
創業時についてと女将としてのスタート
── 由府両築さんの創業はいつ頃でいらっしゃいますか?
緒方様
まずこの建物が築90年以上、そして50年程前にこちらに移築してきたんですね。そこから旅館として創業しています。今から15年くらい前に他の方が経営していたものを社長が購入させていただき、私は二代目になります。
私も最初は若く旅館を継ぐ気持ちも全く無かったんです。まだ二十歳くらいの時ですかね。私は18歳から25歳までずっと東京に居て思うように過ごさせてもらっていたんですけど、長女ですから気になるものがあって、母が体調を悪くした事もあり、こちらの由布院だけではなく、別府の方にもありますから、26歳になる年に東京から戻ってきたんです。
── 旅館業、女将としての仕事を始められた当初はどういった感じでしたか?
緒方様
私は元々都内のデザインの専門学校に通っていました。経歴からすると、そこから未経験の旅館業に進むというのは異色かもしれません。若いころは地元が好きという自覚がなかったんですけれども、今では戻ってきて本当に良かったと感じています。一番好きな場所です。またこの仕事が天職だと思っています。
この仕事を始めた当初は、まず朝が早くて「こんなに辛い仕事があるんだ!」ってびっくりしました。
毎朝5時半に起きて別府からこちら(由布院)へ来て、仕事をひたすらやって、帰宅するのが夜の9時・10時なんです。それまでずっと動きっぱなしです。若くて体力があったのと、いきなり東京から戻ってきて一から始める訳ですから、以前から頑張っている従業員さん達にも負けないよう、がむしゃらになって働きました。
── 一から女将としての仕事を始めて慣れてくる迄、どれくらいの年数を要するものなんでしょうか?
緒方様
やっと最近じゃないでしょうか。
元々女将という年齢でもなかったし、見えないし、そういった状態で責任者になる訳ですから、来てくださるお客様が満足しているのかという事に兎に角気をつけてきました。毎日、一組一組のお客様の顔を思い出すんですね。「笑顔を見せてくれたから良かったな」とかです。
お客様毎に接客の適切なアプローチを考えて対応させていただく事も大切にし続けてきました。お客様の気持ちを理解する事を一生懸命に勉強しました。
── それは由府両築様の方針ですか?
緒方様
それは私が決めてやり始め、今でも続けている事です。何もわからずに始めた自分にはそれしかなかったんです。館(やかた)も最新のスタイリッシュなホテルなどとは違いますよね。その違いをどう活かしていくかと考えていた時、母のことを考えました。
母は接客業でお客様から愛される人で、私は母の足元にも及ばないですけれども、それでも母が大事にしている部分は血が通っているからか自然にわかったのではないかと思います。

接客へのこだわり
緒方様
最近はインターネットがますます重要になっていますよね。じゃらんnetさんだったり楽天トラベルさんだったり。宿泊したお客様の評価も宿選びの重要な情報です。そういったサービスで高い評価もいただけるようになりました。特に接客についてはオール5を頂いています。
今年になって、JTBさんの顧客満足度アンケート評価では小規模旅館の部で優秀賞を頂き、表彰されました。接客についてはとことんこだわっています。言ってみれば旅館業はお客様に喜んでいただく為のものですから。接客に関するクレームも一度もありません。
── 接客での高い評価をいただく為に一番重要なものとはなんなのでしょうか?
緒方様
真剣に努力し続けることですね。従業員の方とも本音で意見を言い合いました。そういった事も経て、今尚残って付いてきてくれている方は私の考える接客を理解してくれていると思います。
ずっと働いているか家で休んでいるかの2つしか無いような生活でしたが、ここ最近になってこちらが少しずつ軌道に乗ってきてスタイルが変わってきているのですが、誰よりも働いてきたという自負はあります。
時代・お客様の変化
── 8年間に渡る女将としての仕事の中で時代の変化があったり、来られるお客様にも変化があったりすると思うのですが。
緒方様
今の時代は全てにインターネットが関わっていると言っても良いくらいですよね。そういう意味ではインターネット活用の度合いが高まって、より重要になっています。
また、由布院自体のお客様が海外からのお客様をターゲットとしたインバウンド向けへと変化してきているんですよ。外国からのお客様に当旅館の雰囲気・風情が評判なんです。
── 確かにこちらにお伺いするまでに通りを歩いてみると色々な言葉が飛び交っていました。外国の方との意思疎通などはどうですか?
緒方様
言葉が通じなくて困るという事は殆どないです。私達は基本姿勢として海外からのお客様ウェルカムです。私達は片言の英語で一生懸命に伝えさせていただきます。そして最後にハグをしてお送りするのですが、どのお客様も一生懸命に理解しようとしてくださって、私達も一生懸命に理解しようと努力します。
そういった事で多くのお客様へ当館での宿泊が印象強く記憶が残るんです。
文化や言葉が違っても、スタッフ全員が一生懸命に伝えようとします。そういった事も接客としての大事な部分ですよね。

4月16日の熊本地震
── 4月14日・16日の熊本地震は九州のみならず、日本中に衝撃が走りました。地震発生時のお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?
緒方様
本震が発生した時はこちらに居なかったんです。もう深夜でしたから別府の自宅に帰宅して休んでました。発生した時は副支配人が旅館に居ました。発生した時は幸いな事に宿泊のお客様は20代から50代の方が殆どで、お子様とご高齢の方の宿泊が無かったんですね。
地震の発生直後は副支配人が冷静に判断して、お客様にお声掛けして外に誘導して避難所にお連れしました。副支配人が自発的に適切な判断をしてくれて本当に助かったという気持ちでした。今回の地震で改めて実感したのは、従業員さんたちの大切さですね。
── 地震発生直後の適切な初動は素晴らしいですね。女将さんがこちらに戻らってこられた時はどう思われましたか?
緒方様
「わっ!」と思いました。ドアも全部外れてましたし、絵も全て落ちてしまっているし、全てが元とは違っていて「何の後だろう?」と思うくらい。
半日ほど経って中を見てみようと決めたんですけど、余震がひっきりなしで携帯電話の警告音も鳴っていて、とても怖かったです。
── ところで、毎日新聞さんの記事でたくさんの馴染みのお客様から手紙が届いたという記事を読ませていただきました。
緒方様
お手紙を読ませていただいてただただ涙が出ましたね。お手紙も嬉しかったですし、旅館が再開して今では一週間に二名様くらいは常連さんにお越しいただいているんです。皆さん「大丈夫?」「元気にしてた?」ってお声をかけてくれます。
皆さんのお気持ちが伝わってきて、お客様というか、お友達に近いような感覚を感じる時もあります。
── 風評の様なものでの苦労はありませんでしたか?
緒方様
ありました。例えば「由府両築 地震」と検索すると、比較的早く復旧したにも関わらず、地震直後の様子ばかりが出てきていたんです。旅館が無事再開しているのに直後の様子が検索結果に反映されたままでは、お客様も不安に感じられますから。
もう5月末になって旅館も再開しているのに、営業中にテレビ局さんから「被害の様子を教えて下さい」「いつから再開ですか?」というお電話があったりして、実際の今の様子を現地で取材せずに何を言っているんだろうという気持ちにもなりました。
地震の時にはひっきりなしだったメディア関連の方々からの電話が、今では全くかかってこないんですね。今の元気な由布院を誰も伝えてくれないんです。今の活気ある由布院を取材していただきたいです。
これから
── 新しい目標などはありますか?
緒方様
こちら(由布院)と別に別府にも両築別邸がありまして、今はそちらの企画の提案も進めています。規模もスタイルもそれぞれ違うので、企画する内容も違うのですが、今までにはなかった企画も考えていますので、実現に向けて頑張って行きたいです。
移動も増えてきているのですが、この場所が私の原点ですので離れないようにしたいと思っています。旅館業ですからお客様のチェックイン・チェックアウトの際には必ずこちらに居る様にして、お昼の間に動く様にしています。
── 例えば5年後・10年後はどうしているだろうと思われますか?
緒方様
この場所に居ると思います。女将としてお客様をお迎えしてお送りしていると思います。それを止めてしまうと私の電池が切れてしまうという感じでしょうか。
基本的に休みゼロで働いているんですけれども、苦じゃないんです。ここで気を張らないとという気持ちもありますし、基本的に私は接客が好きですし、楽しいんだと思います。
ひとりひとりのお客様が私の思い出でもあるので、ずっと大事にしていきたいです。
── なるほど。今回は貴重なお話ありがとうございました。今の由布院の元気な姿を多くの方に知っていただく力になれればと思います。
緒方様
こちらこそありがとうございました。
由府両築様 各種情報
- 所在地
- 大分県由布市湯布院町川上1097-1
- TEL:
- 0977-85-2526
- ホームページURL:
- http://ryoutiku.co.jp/