料亭金鍋、真花様の取材:門司洋瓦の考える本物

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店舗入口から
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前回(第一回)の伊豆本店さんに続き、今回は北九州市若松区本町の料亭金鍋さんを取材させて頂きました。

店主の真花様に文化財に指定されている歴史ある建物の撮影や様々なエピソード、非常に珍しい料理となった牛鍋についてお話頂きました。

百有余年の歴史を持つ金鍋さんのおもてなしについてや、戦時中に如何にして建物を守られたかというお話等、長く生き続けるお店としての考え方は非常に興味深いものがあります。

本ページでは、撮影させて頂いた写真と共に、料亭金鍋さんについてご案内させて頂きます。

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取材日:平成25年2月5日 料亭金鍋内にて

料亭金鍋について

真花様

金鍋は常連のお客様がメインのお店です。料理のガイド本を見て来られる方も居らっしゃいますけども、そういった方は少ないです。大体常に満室の状況です。

予約がメインという事ですか?

予約しか無いです。急に来られてご用意出来る様な状況ではありませんし、常に予約でほぼ満室なので対応が出来ないという事です。

常連のお客さんは接待で利用頂く事が多いですね。会社やお仕事での大切な方をもてなす時であったり、小倉方面からいらっしゃる方も多いです。ですので、来られる方がもてなす目的でいらっしゃるが多いので、コミュニケーションがスムーズにいく様な役割を担っていると思います。

商売で儲けようという事ではなくてですね。地域に貢献したいですからね。

時代の変化に対して

地域が車社会というか、以前よりも確実に車での移動に頼る方が多くなっていますね?

真花様

うちのお客さんは車で運転してきていらっしゃるよりは、タクシーであったり運転手さん付きのお車で来られる方が多いですので、あまりそれについての影響はないですね。

 

牛鍋発祥について

真花様

江戸時代は牛肉は食べなかったんです。その後幕府が倒れて明治政府になって色々と改革をしていく訳です。それで「牛肉を食べなさい」と、西洋化です。

それと富国強兵です。なかなか日本人は牛肉を食べなかったので国が推進していったんですね。

けものという意識もあった様ですし、仏教の教えもありまして。そんな中天皇陛下が御自ら牛鍋を召し上がられた訳です。

それで陛下が召し上がられたのだったら食べてみようという方が出てきて、実際に食べてみると「美味いじゃないか」と。それで全国に広がっていったという事です。

牛肉というのは今で言えばステーキだったりすき焼きみたいな食べ方もあるんですけども、味噌で炊くというのが日本人には最初一番馴染みやすかったんですね。

それでうちも九州で初めての牛鍋屋として創業したんです。当時としてはハイカラな料理だったんです。

「牛鍋食わんのは開けぬ奴」と言われたくらいで、(牛肉を食べないと)文明開化が進んでいないじゃないかと。明治の最先端の食べ物だったんです。

それで一気に広まったんですけど、当然肉食文化が広まると料理にバリエーションが出てきますね。ステーキであったり、しゃぶしゃぶにしたりすき焼きにしたり。

そういったバリエーションが急速に増えていく中で牛鍋が消えていったんです。ただ、金鍋は伝統的な牛鍋を残していったんですね。

改善を続けながらも基本的なレシピは当時のものを継承してます。勿論変わった事もあって、それは牛肉が良くなったという事です。現在は伊万里牛を使っているんですけども、さしの入った柔らかい肉です。

(それに比べて)昔の肉は固かったと思いますよ。肉は随分進んだと思います。肉の質や味という点では当時の牛鍋とイメージは違ったものでしょうね。

料理とお酒、「懐かしさ」が新鮮

真花様

うちは焼酎が多いですね。大体焼酎は良い物を揃えてます。ビールじゃないほうが喜ばれるというのはあるかもしれません。

それで牛鍋なんですけども、私はあまり飲まないんですけども、「牛鍋と赤ワインが良く」と言って頂く事が増えてましてね。「味噌と赤ワイン」が合うという事でお好きな方が多いみたいですね。

常連のお客様中心の中で比較的に若いお客さんなどはどうですか?

若いカップルの方も見えます。インターネットで知った方がデートでちょっと背伸びして彼女と普段と違う特別な時間を過ごしたいみたいなイメージですね。

ただ、若い方の反応も面白いですよ。私たちの年代はこういった建物は昔ありましたから「懐かしい」という感じなんですけど、若い方には新鮮みたいですね。「なんかすげえ」みたいな表現される方も居ます。

新鮮と感じてもらえる世代があるというのと同時に、「永遠の価値」ってのもあると思います。

例えば、近代建築みたいなもので有名なお店も多くありますけども、神社とか仏閣とかといった歴史あるものが廃れていくとは思わないです。

それは匠という存在がどれだけ情熱を込めたという建物かという事でエネルギーが建物に見えているという感じですね。

今後の金鍋さんとしての方向について

真花様

基本的に変えないでおこうと思います。昔ながらのスタイル、昔ながらのおもてなしについてはずっと変えないでおこうと思います。新しいやり方、新しい料理もあるとは思うんですけど、あまり目先の事ばかり考えないでおこうと。

今までずっと同じスタイルでやってきて残ってきた訳です。うちなんかにしても近代的に改装しても良かった訳です。

ひょっとしたらお金がなかったのか、怠慢なのかもしれないですけど、結果としてそうなって今の状態に私自身満足していますので、そのスタイルは少なくとも私の代で変える事はないですね。料理にしても、もてなしにしてもそうです。

これはお客さんに言ってもらったんですけども、「劇場型スタイル」だと。まるでタイムスリップして昔の時間に入り込んでしまったみたいな。

昔ながらのもてなしのスタイルにしてもそうです。何でも今は簡略化してしまうじゃないですか。うちはわざと手間をかけています。

お刺身にしても大きな器でお持ちして、それを取り分けるんです。どれだけ人の手を加えていくかという事です。

おもてなしについて

真花様

初めての方はびっくりされるみたいですよ。ふぐ刺しなんてのも一枚ずつ女の子が巻いてお出しするんですね。

嫌だっていうお客さんも居ると思うんですよ。それも私がやり始めた事じゃなくて、昔からそのやり方なんです。

こちらとしてはおもてなしのスタイルを変えない訳ですが、受け止められる側のお客様の感覚が時代の変化と一緒に変わってきているという感じです。

よくあるシチュエーションで、面食らってどうしていいかわからないとか、やたら緊張されたりみたいな事もあります。

うちとしてはスタイルは変えないので、お客さんにあわせてもらっているのかもしれないですよね。

でも、それでお客さんが来なくなるかと言えば、ちゃんと来て下さってますから。初めて来て気に入って下さった方が大事な方をもてなすという連鎖がある訳です。

文化財に指定された建物について

真花様

建物自体はどうしても壊すわけにはいかないという事で、特に自分のひいおじいさんが苦労してます。随分と建物を大切にする方でしたから。なので今も大切にしています。

修復や修繕にしても、お金はどうしてもかかるんですけども昔ながらにこだわります。例えば柱にしても、一本どうかなると新しいものを入れるんですけど、古いものに色を合わせる訳です。

うちは文化財に指定されてますけども、この建物を大切に修繕しながら守っていこうと思っています。

文化財に指定された事についてはよもやという感じで、今となってこういった珍しいとされるものになるとは思っていもいなかったです。

ひいおじいさんは毎日掃除してましたね。建物を磨くんですね。掃除をする人はちゃんと居るんですけどね。

とにかく掃除する人で、亡くなった時には棺桶にほうきとちりとりを入れたくらいです。それくらい建物を気にしてました。

戦時中にこの街は空襲が凄くて随分焼けたんです。普通は疎開するんですけど、うちのひいおじいさんという人はそれをせずに夫婦で建物の中に残って、砂袋を屋根の上に置いて火事になったらその砂で自ら消火していたんです。

何度か燃えかけたんですけどもなんとか食い止めたと。ある時、焼夷弾が軒先に落ちたんです。不発というかくすぶってたんです。

思わず素手で掴んで表に投げたらしくて、その時に大火傷して終戦後それが原因で亡くなったんです。終戦を自分の目で確かめて。それは執念があるからです。

長く続く理由

真花様

老舗と言われるお店には長く続く理由があります。やっぱり長いスパンでものを考えるという事ですね。商売でも会社でも目先の数字のことばかり考えがちじゃないですか。

そういったものを全く無視しろとは言いませんけれども、もっと長いスパンで見る事が大事だと思います。

うちは「建物が昔ながら」「もてなすスタイルも昔ながら」でハードとソフトがセットなんです。

そしてもちろん料理。

建物がいいのに料理がまずいじゃ駄目ですからね。

この後、敷地内を撮影させて頂きました。お忙しい中、真花様、金鍋の皆様ありがとうございました。

撮影画像
料亭金鍋建物外より

料亭金鍋建物前より

向かって左には国登録有形文化財「金鍋本館・表門」の説明(北九州市教育委員会)

料亭金鍋カメノオ煙突

料亭金鍋入口前より

広い入口。懐かしさを感じる雰囲気でした。若い方が驚かれるのもわかる気がしました。

料亭金鍋建物正面より01

料亭金鍋本館一階

料亭金鍋の常連客だった火野葦平原作の映画「花と龍」のポスター。映画のロケでも料亭金鍋でも使われたという事です。

料亭金鍋店頭にて

本館二階の風景

雰囲気のある本館二階の一コマ。最近はこういった懐かしい建物の中に入る事が無いという方も多いのではないでしょうか。

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